漢方医学

漢方の診察

知られざる病『脈痹』とは

- 脈痹の概要 脈痹とは、東洋医学で使われる言葉で、体の様々な場所に痛みやしびれが現れる病気のことを指します。西洋医学の特定の病気とは完全に一致しませんが、動脈硬化や末梢血管疾患などと関連付けられることもあります。 東洋医学では、体の中を「気・血・水」と呼ばれる生命エネルギーが常に巡っているとされており、この流れが滞ると体に様々な不調が現れると考えられています。この流れが滞ることを「瘀血(おけつ)」といい、脈痹もこの瘀血が原因で起こると考えられています。 脈痹は、特に血管の働きが低下することが原因で起こると考えられています。血管は、血液を全身に送り届ける重要な役割を担っていますが、加齢や生活習慣の乱れなどによって血管が硬くなったり、血管の内側にコレステロールなどが溜まったりすると、血液の流れが悪くなってしまいます。その結果、栄養や酸素が体の隅々まで行き渡らなくなり、痛みやしびれなどの症状が現れると考えられています。 脈痹の症状は、痛みやしびれの他に、冷え、こわばり、むくみ、皮膚の色が変化するなど、様々なものがあります。これらの症状は、どの血管にどの程度瘀血が生じているかによって異なります。そのため、東洋医学では、脈や舌の状態、お腹の状態などを総合的に判断し、その人に合った治療法を検討していきます。
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陽虚証:身体の芯から冷えを感じるときに

- 陽虚証とは -# 陽虚証とは 東洋医学では、人間の体は「気・血・水」のバランスによって健康が保たれていると考えられており、体の様々な機能を動かすエネルギーとして「気」が重要視されています。 この「気」の中でも、温める、動かす、守るといった働きをするものを「陽気」と呼びます。 陽虚証とは、この陽気が不足した状態を指します。 例えるならば、太陽の光が弱まってしまったように、体全体が冷えやすく、エネルギー不足を感じやすい状態と言えるでしょう。 具体的には、次のような症状が現れます。 * 冷え性手足の先やお腹が冷えやすい。 * 疲れやすい少し動いただけですぐに疲れてしまう。 * 顔色が悪い顔色が青白く、生気が感じられない。 * 食欲不振食欲がなく、食事量が減ってしまう。 * 便秘がち便が硬く、排便が困難になる。 * むくみやすい特に夕方になると足がむくみやすい。 * 下痢特に朝方に、水のような下痢をすることがある。 これらの症状は、陽気が不足することで、体の機能が低下し、水分代謝が悪くなるために起こると考えられています。 陽虚証は、生まれつきの体質や生活習慣、加齢などが原因で引き起こされます。 冷えやすい環境で過ごしたり、冷たいものを摂りすぎたり、睡眠不足や過労が続くと、陽気を傷つけてしまうため注意が必要です。
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東洋医学における心下痞:その特徴と理解

- 心下痞とは -# 心下痞とは 心下痞(しんかひ)は、東洋医学において、みぞおち周辺に感じる、様々な不快感や違和感のことを指します。みぞおちはちょうど胸骨の下あたりに位置し、西洋医学でいう「心窩部」と呼ばれる場所に相当します。このみぞおちの奥に、何かが詰まっているような、つかえているような、あるいは押さえつけられるような、重苦しい感覚を覚えます。しかし、実際に手で触れてみても、明確な腫れや痛みは感じられないことが特徴です。 現代医学の診断基準に照らし合わせると、心下痞に完全に一致する病名は存在しません。強いて言えば、機能性ディスペプシア(FD)と呼ばれる、検査では異常が見つからないにも関わらず、胃の痛みやもたれ、膨満感などの症状が続く病気と、症状が重なる部分が多いと考えられています。 心下痞は、ストレスや不規則な生活、冷えなどによって、体のエネルギーや水分をスムーズに巡らせる働きである「気」の循環が滞ってしまうことが原因で起こると考えられています。その結果、胃腸の働きが低下し、みぞおち周辺に不快な症状が現れると考えられています。
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東洋医学における「陽虚」:その理解と対策

- 陽虚とは -# 陽虚とは 陽虚とは、東洋医学において重要な概念の一つであり、体の「陽気」が不足している状態を指します。 この「陽気」とは、単に太陽の熱や光を意味するのではなく、私たちが生きていくために必要な生命活動のエネルギー源のようなものです。 太陽の光を浴びて植物が成長するように、私たち人間も陽気によって体を温めたり、臓器を働かせたりしています。 陽気が不足すると、体全体の機能が低下し、様々な不調が現れます。 例えば、体が冷えやすく、手足が冷たくなったり、顔色が悪くなったりします。 また、疲れやすく、元気が出ない、食欲不振、消化不良、下痢などを起こしやすくなります。 さらに、陽虚が進むと、むくみや冷え性、生理不順、不妊症、EDなど、深刻な症状が現れることもあります。 陽虚は、体質や生活習慣、環境など、様々な要因によって引き起こされます。 特に、冷食や生野菜の過剰摂取、冷たい飲み物の飲み過ぎ、過度なダイエット、運動不足、睡眠不足、ストレスなどは、陽気を損傷する原因となります。 陽虚を改善するためには、体を温める食材を積極的に摂り、適度な運動を行い、十分な睡眠をとるなど、生活習慣を見直すことが大切です。
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東洋医学における李朱医学

- 李朱医学とは 李朱医学とは、金や元の時代に活躍した李東垣と朱丹渓という二人の医師の医学をまとめた呼び方です。彼らは、当時の中国で広く受け入れられていた儒教の一派である朱子学の影響を受け、それまでの東洋医学に新たな視点を持ち込み、独自の医学体系を作り上げました。 特に、人間の体質や病気の状態を「気」という概念で捉え直したことが、彼らの医学の大きな特徴です。「気」は、東洋医学では生命エネルギーと考えられていますが、李朱医学では、この「気」の流れやバランスの乱れが、様々な病気の原因となると考えました。 李東垣は、脾胃(消化器系)の働きを重視し、「脾胃は気を生む源」と考えました。彼は、脾胃の機能が低下すると、気の流れが滞り、様々な病気が引き起こされるとしました。一方、朱丹渓は、心の働きに着目し、「心は気を主る」と考えました。過度なストレスや感情の乱れは、心の機能を低下させ、気の流れを乱すと考えました。 このように、李東垣と朱丹渓はそれぞれ異なる視点から「気」を論じましたが、人間の体と心を一体のものとして捉え、「気」の重要性を説いた点では共通していました。彼らの学説は、後世に大きな影響を与え、特に明の時代以降、中国医学の主流となる温補学派の礎となりました。
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漢方における古方派:古典に基づく治療体系

- 古方派とは 古方派は、漢方医学における大きな流れの一つであり、中国の後漢時代に編纂された医学書『傷寒論』とその注釈書を特に重視する流派です。この流派は、『傷寒論』に書かれた教えを忠実に守り、その内容を深く探求することで病気を治療することを目指しています。そのため、古方派は『傷寒論』を重視する立場から「傷寒学派」とも呼ばれています。 古方派は、病気の原因や症状を分析する際に、六経弁証と呼ばれる独自の理論を用います。これは、人体の経絡というエネルギーの通り道と、自然界に存在する六つの気候の変化(風、寒、暑、湿、燥、火)を関連付けて病気を解釈する考え方です。この六経弁証に基づき、患者さんの体質や症状、病気の進行段階などを総合的に判断し、一人ひとりに合わせた最適な治療法を選択します。 また、古方派では、漢方薬の処方においても『傷寒論』に書かれた処方を重んじ、その組み合わせや分量を厳密に守ります。これは、長年の臨床経験に基づいて効果が確認された処方を後世に伝えるとともに、患者の体への負担を最小限に抑えるためです。 西洋医学が主流となっている現代においても、古方派は中国伝統医学の基礎として脈々と受け継がれています。その古典的な治療法は、病気の根本的な改善や体質改善を目指す人々にとって、今もなお貴重な選択肢の一つとなっています。